シヌへのシヌへの物語2
古代エジプト中王国時代の『シヌへの物語』を解読していきます。
古代の生活を覗いてみましょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【以下の見方】
・転字(発音記号、カタカナ読みver)
・意味(各象形文字の意味を文字コード、転字に対応させて書く)
・訳(象形文字の訳を書く)
・+α(その下に豆知識を入れることもある)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【シヌへの物語 本文】
【翻字1】
M4-t:O50-10:10*10-N11:1*1*1-M8-Aa1:t-N5*1*1*1*1*1*1*1*
【翻字2】
【転字】
Hat-sp-10+10+10 -Abd-1+1+1-Axt -sw -1111111
ハトセプ 30 アベド3 アケト スウ7
【意味】
M4-t Hat-sp ハトセプ 治世
10:10*10 30 30 30年
N11 Abd アベド 月
1*1*1 3 3 3
M8-Aa1:t Axt アケト 増水季
N5 sw スウ 日
7 7 7
【訳】
治世30年3月、増水期(アケト)、7日
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【日本と異なる古代エジプトの季節区分】
日本の春夏秋冬の4つの季節区分のとは異なり、
古代エジプトでは増水季(アケト)、冬季(ペレト)、夏季(シェムウ)の3つの季節から成る。
以下は、原文での表記と転字である。
▶︎増水季
Axt (アケト)
文字コード:M8:Aa1*t
▶︎冬季
prt (ペレト)
文字コード:pr:r-t:N5
▶︎夏季
Smw (シェムウ)
文字コード:N37-n:n:n-N5
また、小川 英雄氏の『発掘された古代オリエント』(有限会社リトン、2011、P7〜)によると
古都メンフィスではナイル川増水の時期を目安に、元旦を7月19日とした。
最初の4ヶ月は冠水するため、予め水路や堤防を作り流水と沃土を溜めて耕地を作り、
減水後の4ヶ月は耕地の整備や播種を行い、
最後の4ヶ月は収穫、脱穀、貯蓄が行われた。
とされています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【翻字1】
a:r-N31-R8-Z1-r-N27-t:pr-f
【翻字2】
【転字】
ar-nTr-r-Axt.f
アルネチェルエルアケトエフ
【意味】
a:r-N31 ar アル 昇る
R8 ntr ネチェル 神
r r エル 前置詞 〜に
N27-t Axt アケト 地平線
f .f エフ 彼(の)名詞を修飾しているの為
訳
神(アメンエムハト1世)は彼の地平線に昇った。
→「死去した」の古い言い方。
sDm.f形(sdmは言うという動詞でfは主語なので、英語でいうところのV S形。S V形。)の為普通は現在形だが、古い時代の言い回しなので、歴史的完了形が当てはまり、過去に訳す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【翻字①】
sw:t-bit:t-<-N5-s-R4:t*p-F34:Z1>-s-D2:r-pt:f-r-p*t:pt
【翻字②】
【転字】
nsw-bit sHtp-ib-Ra sHr.f
ネスウビト セヘテプ イブ ラー
【意味】
sw:t nsw ネスウ 上エジプト
bit:t bit ビト 下エジプト
sw:t-bit:t nsw-bit ネスウビト ネスウビト名(上下エジプト王の名)
s-R4:t*p sHtp セヘテプ 極上品
F34:Z1 ib イブ 心臓
N5 Ra ラー 太陽神ラー(尊敬として、文字で書くときは一番前に出される。)
s-D2:r sHr セヘル 飛ぶ
pt 決定詞
f .f エフ 彼は (三人称、単数、男性)
r r エル 〜へ (前置詞)
p*t:pt pt ぺト 天
【訳】
上下エジプト王 セヘテプイブラー。彼は天へ飛んだ。
→「飛んだ」も古い直説法の使い方をしている為、過去に訳す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【複数ある古代エジプトの王の名前】
・サーラー名 (ラーの息子名) 生まれた時の名前
・ネスウビト名(上下エジプト王名)
・ホルス名
・黄金のホルス名
・二女神名
→サーラー名とネスウビト名はカルトゥーシュで囲まれる。
ホルス名、ネブティ名、ネスウ・ビト名、黄金のホルス名、サー・ラー名とは何なのかについて詳しく記載する。pharaoh.seと松本弥 『ヒエログリフを書いてみよう読んでみよう』(白水社 2012年)信州大学教授の屋形禎亮『古代オリエント』(1989有斐閣新書)を参考に記載する。各パートでは各書に書かれていた事を要約、羅列する。
ホルス名:
『ヒエログリフを書いてみよう読んでみよう』によると、紀元前3100年頃の統一王朝以前からある名前であり、『古代オリエント』によると、セレクと呼ばれる王宮を表す枠の前に王家の出身地ティニス地方の守護神ハヤブサ、ホルス神を書き、王を天の神ホルスの化身として表現している。
ネブティ名 / 二女神名
『古代オリエント』によると、王国が統一されて出現する第一王朝のファラオには「ホルス名」に第二の名前として「ニ女神(ネブティ)名」が加えられる。上エジプトの禿鷲女神ネクベトと下エジブトのコブラ女神ウァジェトの化身を表したものである
ネスウ・ビト名 / 上下エジプトの王
『古代オリエント』によると、第一王朝第六代ウディム王の時代に現れた名前。今までの「ホルス名」「ネブティ名」は神の化身を表現していたのに対し、「ネスウ・ビト名」は上エジプトを象徴する水草の管(スゲ)と下エジプトを象徴する動物の蜜蜂を象ったものである。
つまり、ファラオは国土の所有者(国土王有の理念)であることを表現している。裏づけとして貢租量決定の基礎となる土地・家畜の調査がこの王の治世に始まったこと、官僚制の整備が認められること、王位更新の「セド祭」が即位後30年の原則に従わず王の主体性によって挙行されていることなどが挙げられる。また、カルトゥーシュで囲まれる。
信州大学教授の屋形禎亮『古代オリエント』(1989有斐閣新書)P125にもネスウ・ビト名について記載があったが、L6にジェセル王が第3王朝2代目と書かれてあり、2021年の研究ではジェセル王は第3王朝初代の見解が強いため、ここの記載は古い研究であると私は判断し、参考としない
ホル・ネブウ名 / 黄金のホルス
太陽信仰と深い関係の名。エジプトではほとんど雨が降ることはない。雲に隠れず毎日、太陽が空に昇ることが当たり前で、タ方にはきまって鮮やかな暮色を発し、一日が終わる。闇の世界を過ぎると、また東の空に姿をあらわす。その様子に古代のエジブトの人々は、現世と来世(冥界)を往復し、再生復活、永遠の生命のあり方をみた。そこで生まれたのが、ホルス名と黄金を象徴する文字を組み合わせた名前、黄金のホルス名(ヘル・ネブウ名)。黄金は水遠に輝く太陽を象徴するものと考えられ、王権が水遠のものになることを願ったもの。
サァ・ラー名 / 太陽の子
第四王朝スネフル王の時にできた名前。ファラオが太陽ラーの化身(息子)であることを表した名。この頃には巨大ビラミッドの時代は終わり、小規模ビラミッドと太陽神ラーを祀る神殿が築かれるようになった。そのため国民に大きな影響力をもっていた太陽神ラーの息子を名乗ることで、権力の維持に努めた。
また、今までのセレクに代わり、即位時のネスウ・ビト名(上下エジプト名)と誕生名(「ホルス名」、後に「サァ・ラー名」)はカルトゥーシュ(「太陽をめげる全治の王」を意味する楕円の枠)で囲むこととなる。
カルトゥーシュ(名前をかかれる枠)
古代エジプト語での発音はシェン。両端の結び終わりをなくすことで永遠のイメージを持った。カルトゥーシュとはフランス語で発射する前の銃弾が入った薬莢のこと。1798年にエジプトに遠征に行った兵士や学者が使い後に学術用語になった。
つまり、これらの名前(称号)は同一人物を表す。第4王朝以降のファラオは5つの名前(称号)をもち、トトメス3世のいた第18王朝においては、生まれた時につけられた名前が、「サァ・ラー名」、即位した時に与えられる名前が「ネスウ・ビト名」、さらに、宗教と絡めて王権を誇示するのが、「ホルス名」、「ネブティ名」、「ホル・ネブウ名」であった。
カルトゥーシュとは?
丸い枠のこと。丸くなっているのは、永遠を表す為。
カルトゥーシュとはフランス語で薬莢を意味するが、ナポレオン・ボナパルトが
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【翻字①】
W9-m-Y1-m-i-t:n:N5-R8-V28-a:F51-U23-D58-Aa1:Z9-Y1-m-ir-sw-w
【翻字②】
【転字】
Xnm- m- itn- ha-nTr-Abx-m-iri-sw
ケネム エム ハア ネチェル アベク エム イリイ スウ
【意味】
W9 Xnm ケネム 合体する (状態形)
M m エム 〜と(前置詞)
i-t:n itn アテン 太陽
N5 決定詞
V28-a ha ハア 肉体
F51 決定詞
R8 nTr ネチェル 神(尊敬の逆転。文字で書くときは尊敬で前にくるが、発音するときは後ろで発音する)
U23-D58-Aa1 Abx アベク 統一する
Z9-Y1 決定詞
M m エム 〜と、〜の中に(前置詞)
ir iri イリイ 作る(分詞、完了能動→作った者)
sw-w sw スウ 彼を(従属代名詞、三人称、単数、男性)
【訳】
(彼は)太陽と一つになって神の肉体は彼(アメンエムハト1世)を作った者と統一されて(天へ飛んだ)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【翻字①】
i-w-F26:n-nw-w-O49-m-s-g:r-A1-F34-Z1:Z2-m-G28-m-w-G37:Z2
【翻字②】
【転字】
iw-Xnw-m-sgrw-ibw-m-gmw
イウ ケヌウ エム セゲル イブウ エム ゲムウ
【意味】
i-w iw イウ 〜である
F26:n-nw-w Xnw ケヌウ 王宮
O49 決定詞
m m エム 〜の中に(前置詞)
s-g:r sgr セゲル 沈黙させる
A1 決定詞
F34-Z1:Z2 ibw イブウ 心(複数形)
m m エム 〜の中に(前置詞)
G28-m-w-G37:Z2 gmw ゲムウ 悲しみ
【訳】
王宮は沈黙の中にあり、悲しみは心の中にあり、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【参考文献】
・吹田 浩 『中期エジプト語基礎文典』
・Citing JSesh | JSesh
(無料で象形文字を打てるアプリ。東京大学の永井先生が日本語での操作ガイドを作ってくれている)
・小川 英雄氏の『発掘された古代オリエント』有限会社リトン、2011
・R. O. Faulkner, Concise Dictionary of Middle Egyptian, Griffith Institute Publications, Oxford,1962
P72〜78(早稲田大学卒)
・大貫良夫・前川和也・渡辺和子・屋形禎亮、『人類の起源と古代オリエント』、中公文庫、2009
P122